さよならさえ、嘘だというのなら

「凪子がみんなに迷惑かけてごめん。凪子は前から嘘を付くし、僕も辛い目に沢山あってきて……」

もういい。
聞きたくない。

俺はカバンを持って教室を出る。

「颯大!」
七瀬に名前を呼ばれたけれど

「『熱があるから帰る』って先生に言っといて」

もう誰の話も聞きたくない
誰とも話をしたくない

誰も俺を信じてくれない。

須田海斗が洗脳し
教室を乗っ取った。

「お先」
軽く手を上げ俺は学校から出て
チャリに乗る。

平日のまだ太陽の下
学生服の高校生は
夏の日差しを浴びながら
商店街の入口に足を踏み入れる。

宮原薬局の色あせた首振りカエルの隣

今日もカンスケさんは座ってる。

目線を遠くにやり
ヒゲも髪もゴマ塩の白髪交じりでツンツンしていて
黒のニセブランドジャージを着て
カンスケさんはただ座る。

「こんにちは」

頭を下げて挨拶して通り過ぎる。

いつもの日常
いつもの風景なんだけど


今年の夏は

違ってる。



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