さよならさえ、嘘だというのなら

玄関からチャイムの音がしたので
俺は一気飲みしたプルミルをゴミ箱へ捨て、玄関に行くと

七瀬がそこに立っていた。

「……うぉっす」俺が言うと

「……おっす」七瀬は目線をキョロキョロさせて返事をする。

子供の時から
照れてる時の仕草だった。

「熱は?」

「へっ?」

「熱があるから学校を早退したんでしょ!」
イラっと七瀬が言う。

「あるある。40度ぐらいある」

「あーそーですか」

そんな会話をしながら
須田兄妹達がやって来る前の平和な時間を思い出す。

夏の始まりに戻りたい。

「先生が帰り言ってたけど、今日から夜の6時以降は外出禁止だって」

「まじかー」

「まじ」

松本を襲った犯人がはっきりするまで、ずっと外出禁止だろう。

「あと、結衣は大丈夫だからって先生が言ってた」

「意識戻った?」
俺が聞くと七瀬は首を横に振る。

「意識は戻ってないけど、命に別状はないって」

よかった……って今は思おう。
松本が無事でよかった。

でも意識が戻り
あの深く骨まで見える傷跡を自分で確認したら

彼女はどうなるんだろう。

「颯大?」

「あ、ごめん」

「みんな颯大を心配してたよ」

「……そう?」

「うん」

でもみんな
俺より須田海斗を選んだ。

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