さよならさえ、嘘だというのなら

「七瀬!」

大きな声を出すと喉が痛い。
くそぉ
けっこう深く斬りつけやがったな須田海斗。

「七瀬!」
ドロン山の駐車場で俺は名前を呼んで耳を澄ます。

何か聞こえるはず
どんな音でもいい
小さな音でも拾いたい。

七瀬の気配、香り、存在を見つけたい。
じっと五感を鋭くさせていたら

ドロン山の入口で小さな影が動いていた。

そこか?
気持ちが先走り
足をもつれさせながら
何とか奥へ奥へと進むと

「助けて!」って七瀬の高い悲鳴が山に響く。

「七瀬!」

俺も叫びながら
声の元へと走り出す。

ドロン山の入口に近づくたびに

【命は大切に】

【道は開ける】

【死ぬな!】

達筆な立て看板が俺を迎える。

入口まで行くのは久し振りだ。

山へと続く小さな細い道
その入り口にある
申し訳程度の壊れかけた街灯の下にあるのは

ふたつの影。

ひとつは横たわり
ひとつはその傍らに座り込む影。

横たわる人影の首筋からは
赤い噴水が舞い上がる

みすぼらしい蛍光灯に照らされて
プシューッって
音が聞こえるくらいの勢いで血の雨が降る。

あぁ
人間の血って
こんなにたくさん身体の中に入ってるのか
悲惨な状況の中でふと思う。





< 119 / 164 >

この作品をシェア

pagetop