さよならさえ、嘘だというのなら

一度だけ逃げたけど
すぐ捕まり
家の中に監禁されたそうだ。

何も知らない弟は跡継ぎの教育として留学させ、凪子の悲鳴は毎日続く。
もう誰も凪子を一族の人間とは認めず
須田海斗の奴隷として扱う。

「誰も信じてくれないし……私もお兄ちゃんに洗脳されて育ったから、怖くて逆らえなかった」

そんな時
事件は起こる。

それは俺もテレビで観た
凪子の家のすぐ近くで起きた連続殺人事件。

首を切り
出血多量にして殺す。
現代の吸血鬼のような事件が起きて、須田海斗の両親は海斗の仕業と思い、須田海斗を凪子と一緒に俺達の町へと送り出す。

「あれは、うちの町に住んでた住人が犯人。君のお兄さんじゃないよ」
サラリと智和おじさんは言った。

「お兄ちゃんじゃないの?」

「そう。もう10年前に町から出てね、ちょっと精神を病んでプルミルを飲まなくなっちゃって……世間に迷惑かけた。もう役場で捕まえて処分したから大丈夫」

処分って……。

「お兄ちゃんがやったと思ってた」

「おそらく血が足りなくて貧血でフラフラしながら人を襲ったんだろう。最低な事件だ」

そんなのがあるから
心配であまり他の町に出したくない。

おじさんの目は俺にそう語る。

「お兄ちゃんとの転校は嫌だったけど、ドロン山がある町って知ったから来た」

凪子は山を見上げる。

「消えてしまおうと思ってたけど……颯大君に会って……惹かれて……生きたくなった」

はっきり言われて
愛しさがこみ上げる。

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