その瞳に映りませんように

「じゃー宿題のプリント回収するぞー、後ろから前に渡していってくれー」


先生の合図によって、

ばさり、ばさり、と紙が重ねられる音が教室に響く。


とんとん、と後ろから肩を叩かれたため、

私は振り返り、ユズキくんからプリントの束を受け取った。


ん?

一番上にメモが一枚添えられている。


それに気がついた瞬間、ユズキくんがちらっと私に視線を送り、指で合図をした。


私はくるっと体勢を戻し、自分のプリントを重ねて前の席の子に渡した後、そのメモ用紙を広げた。


そこには、

『ライン教えて』

とユズキくん特有の筆圧の弱い文字で書かれていた。


そういえば私、ユズキくんのラインもメアドも知らなかったな。


そう思ったのは束の間。

どくん、どくん、どくん、と鼓動が早くなることを感じた。



「じゃー小テストするぞー、前から後ろに渡していってくれー」


再び先生の合図によって、さっきとは逆の方向にプリントが流れていく。


私はルーズリーフをちぎり、そこに自分のラインのIDを書いた。

そして、プリントの束の上に添えて、後ろのユズキくんに渡した。


恥ずかしくてその目を見ることはできなかったけど、

受け渡すときに軽く指が触れ合った。


ドキッとした。


しかし、

「すみませんー、1枚あまりましたー」と教室後方から声が聞こえ、私は我にかえる。


……ん?

あー! ユズキくんにメモ渡すのに気を取られ、自分の分のプリント取るの忘れてたー!


「すみません、犯人は私です! 取り忘れましたー!」


慌てて席を立つと、ユズキくんが口を押さえて、笑いをこらえている姿が目に入った。


プリントを受け取り、席に戻りながら彼を見る。


ごめんね、と口パクで伝えられた。


重なった視線の先には、もちろん私の姿が鮮明に映っている。


私は軽く頷いた後、逃げるように顔をそらし、正面を向きなおした。



『好きな子なら見たいじゃん』


いつか、彼がそう言っていたことを思い出す。


早くなった鼓動が中々通常モードに戻らない。



私はユズキくんの目が好きだったのに。


きっと、彼自身にも惹かれ始めている。



もしかしたら、彼もまた

私と仲良くなりたいと思ってくれているのかもしれない。



でも、なぜだろう。

なるべく、その瞳に映りたくないと思ってしまうのだ。


その優しい方の目に。




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