その瞳に映りませんように
しかし、視線をそらそうとした瞬間、
「だめ、こっち見て」と言われてしまう。
「や、その……恥ずかしいんですけど」
ばくばくと心臓を鳴らしながら、半分消えそうな声でその目に訴えた。
すると、髪の毛を優しく撫でられる。
「俺、人の目見るの苦手だけど、ハシノさんのは見たいって思う」
「……へ?」
「でも、俺が見ようとすると、ハシノさんすぐそらすじゃん。よく俺の目見てるくせに」
うげ、バレてたんだ。
でも、私の目は見たいって――。
その手は頭に乗せられたまま。
いつの間にか、ユズキくんは私だけに見せてくれる優しい目になっていた。
その言葉、その目によって顔が真っ赤になってしまいそうで、
彼の瞳に映る自分の姿を見つめることしかできなかった。
今のユズキくんは、温かいまなざしで私を包んでくれている。
逆に、そこに映っている自分の目は、やはり普段のユズキくんのそれと似ていた。
ふとさっき聞こえた会話がよみがえってくる。
『ハシノってさー。本当バカっぽいよねー』
本当は、私だってただへらへら笑っていたいわけじゃない。
『でも時々うざいよねー。何でも笑っておけばいいって感じでさー』
だって笑っておけば自分も楽しくなる気がするし、みんなも満足するんでしょ?
『あ、分かるかもー。深い話とかする気なくすよねー』
ってか、みんなの深い話って、どんなもんよ。深さ何メートル? 何センチ? 何ミリくらいっすかぁ?
――あ、そうか。
どこか日常を冷めた目で見ていたのは、
ユズキくんではなく、
私の方だったのだ。