わたしのイトリくん
「それで、今回実家に帰ったのは、どうやらその兄貴が倒れたみたいで。」
「え?お兄さんが...?」
「はい...でも俺が聞いたのはそこまでなんです。」
湊人くんは少し悔しそうに、俯く。
どうしてイトリくんが何も相談せず居なくなったのか、
今の私たちには全く分からなかった。
そして私たちはイトリくんとの出来事を共有するかのように、いろいろな話をした。
イトリくんの大学での生活。
私とイトリくんの話。
話がひと段落した頃には、もう日が暮れ始めていた。
「わ!もうこんな時間?
湊人くん、時間大丈夫?」
「あ!俺、今日はバイトも無いんで!
ヒイロさんも大丈夫ですか?」
私は軽く頷いて見せて、
氷が溶けかけたアイスコーヒーを啜る。
そして先ほどから思っていたことを言おうと思った。
「あの、良かったら今からうちのマンションに来てくれないかな...?」
「え?!」
湊人くんは大きな声で驚いたようにこちらを凝視した。
「あ、あのね。
イトリくんの部屋に行きたくて...もちろん居ないとは思うんだけど。
でも1人だとちょっと勇気なくて。だから一緒に来て欲しいんだけど...」
言い終えて、どれだけ自分が度胸なしなのかとうな垂れる。
「あ!!そ、そういうことですか!」
湊人くんはハハハ、と空笑いしている。
「もちろん大丈夫ですよ!一緒に行きます!」
「本当?湊人くん、ありがとう」
ホッとして、自然と顔が緩む。
ニコニコとしたまま前を向くと、
少し顔を赤くして気まずそうに目を伏せる湊人くんが目に映る。
(あれ、大丈夫かな湊人くん!
無理してるんじゃ...)
湊人くんはチラリとこちらに向き直すと、
自分のほっぺたを軽く平手打ちをし
「じゃ、そろそろ出ましょうか!」と
伝票を持って、スタスタと行ってしまった。
(え、え、ちょ!!なぜ平手打ち?
あ、お金!)