ハロー、マイファーストレディ!
皆藤さんが殊更に私に懐いている(はたから見ればそう見えるらしい)のは、おそらく私が彼女のプリセプター(いわゆる指導係)だった為だ。
右も左も分からない新人ナースだった彼女に、文字通り手取り足取り仕事を教えたのは、もう三年も前のこと。

「大げさじゃないですよ。私、先輩が居なかったら、今頃ナース辞めてますから。私にとっては今も昔も、先輩が一番尊敬するナースです。」
「師長と主任が聞いたら、泣くわよ。」
「すでに知ってます。私あっちこっちで言ってますから。」
「じゃあ、改まって言わないで。恥ずかしいから。」

思わず照れて顔が赤くなったのを隠すように、私は彼女とは反対側にあるパソコンに向かってカルテを確認した。
それに気が付いているのか、皆藤さんは私の背中に向かって話し続ける。

「だから、実は今回のこともすっごく嬉しいんです。先輩が幸せになるためなら、私どんなことでもお手伝いしますよ。」

その一言に、嬉しさとともに罪悪感がこみ上げる。返事が出来ないでいる私の背中に向かって、「じゃあ、入院の受け入れに外来行ってきます」と明るく宣言して彼女は去っていった。

新人時代、何度も辞めると言い出した彼女を根気よく励まして指導していたのは、ひとえに私なんかより彼女の方が何倍もナースに向いていると思ったからだ。
明るく笑って、人に優しい言葉を掛けてあげられる。この仕事をする上で、技術云々よりもずっと大切な事だと思う。

こんな私にも優しい言葉を掛けてくれる後輩いる。
それだけで、私はきっと十分に幸せなのだろう。

口には出さず、心の中だけで一人呟いた。
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