ハロー、マイファーストレディ!

「全て会見で話した通りだ。聞いてなかったのか?」

結局、彼女の問いに、ぶっきらぼうに答える。
と、同時に、どうしてこんな言葉しか出てこないのかと自己嫌悪に陥った。
甘い言葉を囁くなど、俺には一生出来ないかもしれない。

「計画は続行だ。だいたい、婚約破棄したくらいで、世間の同情が買えるか。お涙頂戴の安っぽい芝居は通用しない。」

言わなくてもいい嫌みを繰り出しながらも、彼女の腕を掴んだまま離せない自分がいた。もう、絶対に離さない。どこにも行かせるものかと、手に力を込める。

「お芝居なんかじゃないわよ!」

先に折れたのは、彼女の方だった。

「言っておくけど、私のは全て本心だから。あなたの為なら、私に出来ることは何だってしたかった。それがどういう意味か分かる?……好きなだけ笑えばいいわ。バカな女だと言われても、その通りだから。」

まっすぐな言葉と共に、彼女の目からは涙が溢れる。それでも、彼女は俺から目を逸らさずに、はっきりとその言葉を口にした。

「あなたが、好きよ。」

まっすぐにこちらを見つめる、彼女の意思の強そうな瞳が、少しだけ不安に揺れる。
その一言に、俺の体は勝手に彼女を抱き寄せていた。

「本当に、バカな女だな。」
「ええ、演技でも惚れた女だって言われたくらいで舞い上がっちゃうくらいには、バカな女よ。」
「そうじゃない。」

彼女を抱く腕に力を込める。今度は、伝えたい言葉がするすると簡単に出てきた。

「全て話した通りだと言っただろう。演技も嘘もない。今日やってきたマスコミはいいものが撮れたはずだ。高柳征太郎が本性を晒した貴重映像だな。」

俺の腕の中で、真依子が息を飲むのが分かる。

「おそらく、もう二度と撮れない。好きな女を逃すまいと必死な姿なんて、二度と見せるつもりはないからな。」

ゆっくりと顔を上げた真依子の驚いた顔を見て、思わず笑みがこぼれた。
言ってしまってから、無性に恥ずかしくなった俺は、真依子に何かを言われる前に、彼女の唇を自分の唇で塞いでいた。

久々に味わう彼女とのキスは、溢れる涙の味がした。
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