ハロー、マイファーストレディ!
25階のフロアに着くと、エレベーター正面のソファに透の姿があった。
左手にはゴールドのカードキーを持ち、ゆったりと腰掛けている。
「見張り番、ご苦労さん。」
「ああ、誰にもつけられなかったか。」
「大丈夫だ。二台ほど巻いてもらった。」
「相変わらず、あのオッサンすごいな。」
「刑事にしておくには、確かにもったいない腕前だな。」
「追いかける方より逃げる方が得意みたいだからな。まあ、無事にたどり着いてくれて助かった…部屋は、2501だ。」
雑談混じりに、透がカードキーを差し出しながら、部屋番号を告げる。
俺は、一つ頷いてからそれを受け取った。
「すぐ終わる。バーで一杯飲んで待ってろよ。」
一緒に庁舎に帰ろうと提案するも、透はフッと笑って首を振った。
「せっかくなら、ゆっくりしてこいよ。」
意味が分からず、眉間に皺を寄せると、透が20年来の親友の顔で下世話な笑いを浮かべた。
「仲を深めるには、ベッドを共にするのが一番だ。」
「お前とは違うよ。」
「結婚する前に、体の相性くらい確かめれば?」
「万が一、合わなかった場合、相手は替えられるのか?」
「そりゃ、無理な相談だな。」
「だったら、無意味だろ。」
「ははは。いいから、お前もたまには息抜きしろよ。相手があの女なら、たとえスクープされても、スキャンダルじゃなくて美談だ。」
「ふっ、さしずめ、不安がる恋人の所に駆けつけるナイトってとこか。」
「ああ、ただ、ちゃんと避妊しろよ。婚前妊娠に対して、いまだ世の中の淑女たちは否定的だ。」
透はポケットからさりげなく避妊具を取り出して、俺のポケットに押し込む。
「3つで足りるか?」
「たぶん使わないが、一応預かっておく。」
「意地っ張りだね、征太郎君は。それとも、草食系なのか?ちゃんとお世継ぎが出来るか心配だな。」
「安心しろ。お前ほど年中肉ばっかり食べたくないだけだよ。」
「どうでもいいけど、朝食はフレッシュジュースとパンケーキがおすすめらしい。草食のお前にピッタリだな。」
透は、最後までくすくすと笑いながら俺をからかい倒し、「じゃ、また明日の朝に」と言って去っていった。