ハロー、マイファーストレディ!
「昨日はゆっくりお休みいただけましたか?」
簡単に帰り支度をしている間、谷崎さんから問いかけられる。
「ええ、こんないいお部屋をどうもありがとうございました。」
「いいえ、このくらい当然です。」
昨日の征太郎の話では、この秘書とはおそらく長い付き合いになりそうだ。
そう思って、私から一つの提案を投げかけた。
「谷崎さん、私に敬語は使わなくていいですよ。私の方が年下ですし。」
「そんなわけにはいきませんよ。仮にも“先生”の“奥様”になられる方ですから。」
「だったら、尚更です。あなたも四六時中仮面を被っていては、お疲れでしょう?」
誠実そうな仮面を被っているが、実は軟派で女たらしの鬼畜秘書。
それが、昨日私が新たに上書きした彼の印象だ。
「ははは、本当におもしろい子だね。」
私の一言に、彼が急にその“仮面”を外した。
ニヤニヤとこちらを見つめる顔は、先程思い描いたイメージ通りだ。
「昨日は、随分とお楽しみだったみたいだし。」
「…楽しんでなんて、いません。」
「あの征太郎に添い寝させた女の子は、たぶん君が初めてだよ。」
昨日の出来事もこの男はきっと把握しているのだろう。
下世話な笑みを浮かべながら、私の肩をポンと叩いた。
「外では、もちろん敬語を使いますから、そのおつもりで。いいですか、真依子様?」
「はい。色々とお世話になります、谷崎さん。」
あくまで、上品に微笑みあう。
これから、私も外では“仮面”を被ることになるのだろう。
彼のやたら恭しい敬語で、私もスイッチを切り替えた。