恋愛優遇は穏便に
強引に左手首をつかまれ、ぐいっとその手を政義さんの顔に近づけられた。


「は、離してください」


「あれ。してないんだ」


政義さんはいたずらな笑みをこぼしている。


「食事会のとき、してたでしょ。指輪」


「だって、あれは……」


「そうなんだ、ふうん」


興味がうせたのか、すぐに手を離した。


「どうせ後でつけるぐらいなら、今してもいいのに」


「別に関係ないじゃないですか」


あれは政宗さんと会っているときだけつける特別な指輪だと説明したところで政義さんが難癖つけるだろうから黙っていた。


「ボクだったら、もっといいもの送るのに。たとえば、エンゲージリングとか」


「何バカなこといってるんですか」


「本気だったとしたら?」


「本気って」


政義さんのメガネの奥の目は笑っていない。


「政宗よりももっと幸せにできる自信はあるんだけど」


「自信なんていりません。私、政宗さんのこと、大好きですから」


大好きか、といって政義さんはから笑いをする。

笑いがとまると、私をにらみつけた。


「へえ。それなのに、どうして、食事会のときのキスは拒まなかったのかな」


「それは……、飲んでいたワインのせいで」


「理由になってないけどね」


そういうと、政義さんは大きくため息をついた。
< 116 / 258 >

この作品をシェア

pagetop