恋愛優遇は穏便に
政宗さんがカバンを手にしてこちらへ歩いてきた。


「ああ、五十嵐。研修終わったか」


「はい」


私は政宗さんを見ないように視線を逸らした。


「私、バスで帰りますから。駒形さん、失礼します」


駒形さんが私の行動に不審を持ったのか、くすっと軽く笑う。


「五十嵐、森園を送ってやって」


「わかりました」


「バスで十分ですから」


「森園遠慮するな。ほら、五十嵐、安全運転でな」


「はい。駒形さん、お先に失礼します」


「じゃ、またな。森園」


「駒形さんも。お先に失礼します」


駒形さんの気遣いにはありがたかったけれど、まさかこんなところで政宗さんと一緒になるとは。

政宗さんの後を追うように歩き、しぶしぶ政宗さんの車に乗り込む。

所長の後ろのドアを開けたときだった。


「僕の隣、いやですか」


「そうじゃないですけど、所長がいやだと思って」


「助手席に乗ってください」


後ろから回って助手席に乗った。

久々に隣にいる政宗さんだけれど、壁があってそこから先には進めないような空気だ。


「駒形さんの指示に従っているだけですよね」


「そうですと言ってほしいんですか」


「別にそれでもかまいません」


車を西へと進めていく。会社帰りの車が多くてなかなか先へと進められない。

しかも12月ということもあって道の工事がいたるところで行われていたのもあって渋滞していた。

静かな車内だ。

政宗さんのふう、というめんどくさそうなため息が何度も聞こえてくる。

しかたなく、私から話しかけた。


「研修の二日目、政宗さん、どうかしたんですか?」


「別に何もありませんよ」


政宗さんは冷たく言い放つ。

車内で暖房を入れてくれているのに、足元が冷えていくような気がした。
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