恋愛優遇は穏便に
特別忙しい仕事は入らず、昼休みは高清水さん、北野さんと過ごして定時を迎えを繰返し、顔見せの金曜日がやってきた。

いつもの昼休み、高清水さんは外へ出ていった。

北野さんが来るかな、と思いながら、お弁当を広げていた。


「むつみさん」


甘く低く響く声。

事務所のドアを開けたのは、政宗さんだった。


「政宗……所長」


あわてて言い直すと、かわいいですね、とぽつりとつぶやいて政宗さんは自分の席についた。


「忙しいんじゃ、ないんですか?」


「午後はこの近くをまわるので戻ってみたんですよ。事務所を見回る義務はあります。これでも所長ですよ」


「……そうでしたね」


「あっ、なんだか真面目な言い方をしてしまいました。本当はむつみさんに逢いたくてきたんですからね」


「所長……」


じろじろと机の上に乗っているお弁当をみて、いいなあとうらやましそうにコンビニで買ってきたおにぎりを食べていた。


「嬉しそうですがどうかしましたか?」


「え、そう見えますか?」


「ええ、とっても」


どうしても嬉しいと顔に出てしまう自分が恥ずかしい。

政宗さんと事務所で二人っきりになるのはなかなかないのもあるけれど。

気がつけば、政宗さんが私の席に近づいていた。


「勤務時間じゃなければ今すぐにでも抱きしめたいぐらいですが」


「所長……」


「甘い顔はそこまでにしないと。僕が暴走しそうですから」


政宗さんはせつなそうな顔を浮かべている。

しぶしぶ自分の席に行き、カバンに資料を詰めていた。


「続きは週末にしましょうね、むつみさん」


「え、ええ」


「お疲れ様です~! お邪魔でしたでしょうかね」


珍しくガチャリとドアを音を立てて開けて、高清水さんがニヤリと笑いながら事務所に入ってきた。

それじゃ行ってきますと、焦りながら政宗さんはでかけていった。
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