初恋も二度目なら
「卜部ちゃーん」
「はい?川端くん」
「映画だけど」
「あぁうん」
「今週の金曜は・・・あ。卜部ちゃん、習い事って言ってたよな」
「そうだけど、始まるのは再来週の金曜からなの。だから大丈夫だよ」
「あぁそう。じゃ、金曜な」
「うん」

と、私が一番好きな映画「ワンダフル・デイ」を、川端くんと観に行く約束をしたのが、翌日午前中の話。

総務から営業事務になって、ようやく1週間経ったところだから、まだ仕事に慣れてはいないものの、今はそれほど忙しくもなく、まだ一度も残業をしていない。
この分だったら、金曜日も定時で上がれるだろうと思っていた。

いや、金曜日当日の終業時間10分前まで、私はそう思っていた。


「卜部さーん、お電話でーす」
「あ、はーい」

誰からだろうと思いつつ席に戻ると、電話を取っていた芥川さんが、「長峰部長からです」と言って、私の番号へ回してくれた。

え?部長から?なんだろ。
私は怪訝に思いつつ、受話器を取った。

「はい、お電話代わりました。卜部です」
「俺だ」
「・・長峰部長。おつかれさまです」
「悪いが、俺が帰ってくるまで待っててくれ」
「え!?あの、いつ・・・お帰りになるんでしょうか」
「分からん」
「はあ?」
「今渋滞にはまってるんだ。多分20分・・・いや、30分以内には戻れると思う」
「えっ!?そんな、あの・・一体何の用件があるんですか?今私にできることはありますか?」
「いや。俺が帰ってからじゃないと無理だ」
「それ、どんな用件・・・」
「あ?もしもし?卜部?ちくしょー、聞こえねえ・・・」

私は、受話器を見ながら、部長のスマホが切れた「プッ、プーップーッ」という音を聞くことしかできなかった・・・。
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