クリアスカイ
梅雨が明けたのはその週の木曜だった。例年より5日ほど早いという今年の夏は厳しい暑さになるらしかった。

夕暮れ時になっても気温はなかなか下がらず、冷房はフル稼動して社内を快適に保っていた。
修二はデスクに向かって書類をまとめていた。定時を過ぎた社内は次第に人もまばらになりはじめていて、修二の脇を「お先にー。」と何人かが通りすぎていく。修二は軽く会釈して、不意に出入り口に目をやるとちょうど浅井が出先から戻ってきた。
「あれ、宮本残業なの?」
浅井が汗を拭って話しかけてきた。
「お疲れ様です。…明日、提出の資料なんすけど今日ある程度までやっちゃおうかと。」
「へぇ〜。」と浅井は鞄から書類を出して机に積んでいく。
「明日はそんな忙しいの?」
再び浅井に聞かれ、修二は頭を掻いた。
「や、そうじゃないです。ただ明日は残業できないんで、別の仕事が急に入っても定時であがりたいんですよ。」
修二が説明すると浅井は「あっ。」と声をあげ、
「もしかしてこの前言ってたやつ?」
「はい、そうっす。」
「そっかそっか。それは楽しみだね。次の日休みだし朝までいけるね。」
「ははっ、そんな体力ありませんよ。」
「何いってんだよ。まだまだ若いんだからさ。余裕だよ。」
浅井は声を張り上げると修二の真向かいの自分のデスクに座るとパソコンを開いた。
「いいよね、若いってさ。」
「浅井さんだって充分若いと思いますよ?」
「いや、4つ違うとかなり違うんだって!」
浅井は力説する。
「この前だって久しぶりに飲み行ったら、すぐ酒まわっちゃって全然だめ。宮本ぐらいの時は朝までだって飲んでられたのにさ。」
「そんなもんですかね…」
修二はまだわからないその4年後を想像しようとしたがどうにも思い浮かばない。確かに歳を重ねるごとに何かが変わっていくのかもしれないが、今の修二には25歳の自分すら想像ができない。
修二は「そんなもんなんだよ…」と妙にしょぼくれてしまった浅井をしげしげと見つめたが、浅井自身が口にしたような歳の差だとかジェネレーションギャップに似た感覚は少しも感じられなかった。
ただ例えば4年先に浅井のような25歳になるなら、それも悪くないとぼんやり考えていた。
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