残業しないで帰りなさい!
「なんなのよ、アレ!4階のお茶出しなら4階の人に頼めばいいじゃんよ!」
白石さんはほっぺを膨らませてぷりぷりとそう言い、いつも穏やかな沢口さんまで不機嫌な顔をした。
「青山さん、お茶出しなんて行かなくていいですよ。私が行ってきますから」
「え?でも、なんか私をご指名だったし……」
「いいんですよ、そんなの!社員さんは社員さんのやるべきお仕事をしてください。お茶出しなら私たちアルバイトがやります」
沢口さんは怒っていた。きっと適材適所じゃない指示に腹が立ったんだろうなあ。沢口さんは役割と効率を考えて動く人だもの。
「……なんかすみません」
確かに伝票整理は、伝票を普段扱っている社員でないとわからない部分があるから、沢口さんがここに残っても印漏れを見つけるとか、紐で束ねるとか、そういう補助的なことしかできない。
そう言う意味では、お茶出しに沢口さんが行ってくれると助かるんだよなあ。
「じゃあ私、行ってきますね。アンタじゃないって言われても、背が高いって私のことだと思いましたけど何か?って言ってやりますよ!」
急に燃えてるなあ。沢口さんはドスドスと足音を立てて書庫を出て行った。
でも、意気揚々と行ったはずの沢口さんが、あっという間に玉砕して戻ってきた。
「ごめんなさい……、私ではとても歯が立たなかった」
すごく悔しそうな沢口さん。仕事ができて口も立つ沢口さんが負けて帰ってくるなんて、いったい何があったの?