残業しないで帰りなさい!
小学校5年生の時、私の髪は長くて、普通にスカートを履いて登校していた。
あの日、いつも通り学校から一人で家に帰っていたら、突然ランニングシャツを着た知らないお兄さんが声をかけて来て、私は怖かったから無視して走って逃げた。
でも、お兄さんの方が足が速かった。
腕を掴まれて中華料理屋とビルの間の狭い路地に引きずり込まれた。その時大きな声を出せばよかったのに、怖くて声が出なかった。
いきなり首を掴まれて、油でベタベタした壁に押し付けられた。
ランドセルが壁に当たって、掴まれた首が痛くて息が出来なくて、ものすごく苦しくて、もがいたけれど力が強くて動けなかった。
もがきながら見たから顔はよくわからなかったけれど、お兄さんの目はガラス玉みたいに見えた。
その目は、ものすごく怖かった。
片手で私の首を絞めるように壁に押し付け、もう片方の手がガサツな動きでブラウスをまくりあげる。
安っぽいコロンの匂いがやけに鼻につく。
イヤって言いたいのに叫びたいのに、全然声が出ない。
もがいても全然逃れられない。
「可愛いね」
お兄さんが息を吸うような声で笑って言った時、中華料理屋の裏口の扉がバンッと開いてゴミを出すような音が聞こえた。
その音を聞いた途端、お兄さんは私をパッと離して、あっという間に走ってどこかへ行ってしまった。
いきなり解放されて、私は両手を地面について必死に息を吸うことしかできなかった。
ゴミを出した中華料理屋の店員さんは私の存在には全く気が付かないまま、すぐに店の中に入っていった。