残業しないで帰りなさい!

頭上で課長が息を飲んだ。

どうやら課長は自分が泣かせたと勘違いしたらしい。唐突にうろたえ始めた。

勘違いです!

課長が怒ったせいじゃない。もっと酷いこと言う人、いっぱいいるから!

そうじゃなくて、昨日優しくされたことを思い出したから、だから涙がわいたのに。

ああもうっ!こんなの、ちょっと怒られたくらいですぐ泣く子みたいでイヤだ……。

違うっ!違うの!

「と、とにかく今日はもう帰ってくんない?……心配だから」

涙が出そうなのは課長が怒ったせいじゃないって言いたいのに、一言でも言葉を発したら涙がこぼれてしまいそうで、何も言えずに唇を噛み締めたまま小さくうなずいた。

うつむいたまま、バッグを取って課長の横をすり抜け、更衣室に小走りで向かう。

更衣室に入って扉を閉めたら、目の縁で堪えていた涙がぽろっとこぼれ落ちた。

どうして私、泣いてるんだろう。わけがわからない。

どういうわけか感情が昂って抑えられない。

そもそも、今までの私なら上司に怒られて言い返すなんて、とてもじゃないけど考えられなかった。

ホントに私、どうしちゃったんだろう。
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