残業しないで帰りなさい!

涙を拭いて急いで着替えて、制服をロッカーに入れた。なんとなく額に手をあて息を吐く。

私も会社で泣くなんて、なにやってるんだか。

何度か大きく深呼吸して、変に昂ってしまった自分の気持ちを落ちかせた。

よし!帰ろう。

ガチャっと扉を開けた途端、目の前の壁に課長が寄りかかっているのが目に入って、ハッと固まってしまった。

扉を閉めて戻りたくなったけれど、思いっきり開けてしまった扉を今さら閉められない。

そうだよね。課長なら待ってる可能性があることを考えておくべきだった。全然心の準備をしていなかった……。

更衣室から出てきた私に気がついて顔を上げた課長の優しい瞳を見たら、なぜかまた涙が出てきた。

なんで涙が出てきたのか、もはやサッパリわからない。なんか、涙腺がユルくなっちゃったのかなあ。

今度は大粒の涙になってしまって、まばたきをした途端ぽろぽろっと床にこぼれ落ちた。

課長はそんな私を見て、またもや激しくうろたえ始めた。私に触れるに触れられず、ずっと手のひらをふわふわさせている。

違うの、課長のせいじゃないの!

「ごめん……」

ものすごく苦しそうな顔をしてつぶやいた課長を見たら、ますます涙が止まらなくなった。

もうっ!だから、課長のせいじゃないのに!

「……課長のせいじゃ、ありませんから!……すみません、気にしないでくださいっ」

早口にそう言って急いで涙を拭った。
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