残業しないで帰りなさい!

そういえば私、自分の机のパソコン、閉じるの忘れてる……。戻らなきゃ。

課に戻ろうとする私に課長が声をかけた。

「どうしたの?」

「パソコン、閉じないと」

「電源なら消しといたよ」

……そういうとこ、変に気が利くんだなあ。

「あの、ありがとうございます……」

私は課長に背を向けると、エレベーターのボタンを押した。

すぐ後ろに課長の気配を感じる。でも、顔を見たらまた涙が出てきそうで、とてもじゃないけど振り返れなかった。

「あのさ」

後ろから課長の声が聞こえてビクッとした時、ポーンと音がしてエレベーターが到着した。

早足で乗り込む。

課長も私の後ろにくっついて一緒に乗って来た。

課長、ボタン押さないけど、4階で降りないのかな?

押し黙る私たちの間にはエレベーターのゴウーンという低い音だけが響いていたけれど、しばらくして課長が息を吸った音が聞こえた。

「家まで送っていくよ」

驚いて目を大きく開いて課長を見上げた。

「そんなっ!いいです、そんな」

「……心配だから」

また倒れるか心配、ということ?

「もう、大丈夫ですから」

私が小さくそう言うと、課長は寂しそうな顔をした。

またそういう顔をする!

その寂しそうな顔を見ると、私のせいで課長が寂しくなったんじゃないかって悪いことしたような気持ちになってしまう。
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