残業しないで帰りなさい!

「昨日、うたたね王子に会ったんだって?」

午後になって、会議室で一緒に封入作業をやっていた白石さんが話しかけてきた。

「はい。なんか、見回りしてたみたいで。本当に眠そうな感じの方でしたよ」

「うんうん、確かに。なーんか眠そうなんだよね、あの人」

「だから『うたたね王子』なんですよね?」

白石さんは目を細めて眉をひそめると、他に誰もいないのに小声でヒソヒソと言った。

「いや、そういうわけでもないらしいよ。東京本社にいた時は『カミソリ王子』って呼ばれてたらしいから」

「エエーッ!」

ものすごく驚いて大きな声を出してしまった。何それ?

カミソリとかナタとか鋭利な刃物ばかり……。やっぱり本当は怖い人?それにしても、「うたたね」だろうと「カミソリ」だろうと、王子であることに変わりはないんだ。

「『うたたね』っていうのは、普段は能力を隠しているからっていうのが由来の通説だね」

「はあ、通説ですか……。あ、でも、そういえば係長も藤崎課長は早期退職勧告リストを作ってる噂があるって言ってました」

「えー?ホントー?怖ーい」

白石さんは封入の手を止めて、ぶりっ子風にキュウッと小さく身を縮めた。
そんなことしてないで、早く作業をやりましょうよ!
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