残業しないで帰りなさい!
店員さんがいなくなってしばらく沈黙してしまったけれど、課長はじっと私を見て、少し息を吸った。
「まずは、一つ目のごめんね」
「はあ……」
さっき言ってたいろいろごめんの話?
「さっきは倒れるなんて体調管理できてない、なんて言っちゃったけど、君が倒れたのは、……本当は、貧血じゃなかったんじゃない?」
「え?」
驚いて目を見開いた。
「あの男に触られたから、なんじゃないの?」
課長、気がついてる……。
でも、何と答えたらいいのかわからなくて、茫然としたまま黙ってしまった。
本当のことを言っていいのか、わからない。本当のことを言うにしても、なんて言ったらいいのかわからない。
課長は少しだけ間をおいてから口を開いた。
「君は、ものすごく男が苦手なんじゃないのかな?それとも男が嫌い、なのかな?……倒れるくらい」
息を飲んだ。
どうして、わかっちゃったんだろう……。
でもあの時、課長が応接室に入って来た時、ちょうどあの茶色いくせ毛の人が私に触れていたところだったのかもしれない。
あの時の私の様子を見て、触られて倒れたことに課長は気がついたのかもしれない。
どうしよう。
なんて答えたらいいの?
どうしたらいいのかわからないまま、口元に手を当てて押し黙った。
課長は私の様子を見ながら話を続けた。
「それがなんとなくわかってたのに、さっきは体調管理ができないなんて社会人としてどうなの?なんて言っちゃったから。……ごめんね」
「……い、いえ」
そういう意味でのごめんね、なんだ。