残業しないで帰りなさい!

どういうわけか、瑞穂に話すと気持ちが大きくなって、思いきったことができそうな気がするんだけど、実際には行動に移せない……。

お返事なんて……本当にできるのかな?

夜、電気を消しても頭が変に冴えたみたいになって全然眠れなかった。考えはまとまらないのに頭は冴えている。なんだろう、これ。

寝たんだか寝てないんだかよくわからないまま朝起きたら、今度は頭がもっさりと重たくて、ぼんやりしたまま出勤した。

今日は見本市の最終日。営業さんたちはいつもにも増して忙しく動き回っている。

みんな忙しくしているのに、頭がうまく働かないなあ。

昨日処理できなかった伝票のことを朝イチで高野係長から経理課に内線で伝えてもらったら、既に課長から話が通っていた。課長、ちゃんと言ってくれたんだ。

課長……。課長のことを思うだけで、ドキドキして息がおかしくなる。こんなんじゃ、お返事なんてとても無理だよ。

「青山さん。昨日のお菓子、すっごく美味しかったです。ありがとうございました」

突然沢口さんに言われて、最初は何のことかわからず、首を傾げた。

あっ!そうだ!お菓子!昨日あげたんだっけ。
そんなこと、完全に忘れてた。

そういえば昨日、白石さんと沢口さん、課長のことで勝手に盛り上がってたんだ。なんだか、遠い昔のことみたい。

「……どうかしました?」

ぼーっとしている私を沢口さんが不思議そうに覗き込んだ。

「い、いえっ、どうもしませんっ」

「そうですか……?」

不自然に視線をそらす私を目で追いながら、いぶかしげに席に戻る沢口さん。

私、上手にごまかしたりできないんだよなあ。

沢口さん、きっと何か気がついたよね。あとで白石さんと二人で質問攻めにされそう……。

そういうの、困るなあ。
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