残業しないで帰りなさい!

ため息をつきながら、ファイルを置きに倉庫へ行こうとした時、ちょうどエレベーターが開いて、出てきた久保田係長と目が合った。

驚いて、思わず立ち止まる。

「あっ!」

「あら!あなた、ちょうど良かった。ちょっと来なさい」

久保田係長に腕を掴まれて、あっという間にトイレに連れ込まれてしまった。
この人はトイレで話すのが好きなんだろうか?少し慣れてきたけど、不思議な習性だなあ。

話したいのはおとといの件ですよね?やっぱり問題あったのかな?迷惑かけちゃった?

綺麗な肌をじっと見る。この人……、課長と付き合ってたんだよね?またショックを受けた時の感覚がじわりと戻ってきた。

やっぱりすごく綺麗。でも、付き合ってたの十年以上前って言ってたっけ。……久保田係長、いくつなんだろう。

「あなた、お客様の前で倒れるなんて何やってるの!ありえないから!」

相変わらず語気が強くて圧倒されてしまう。

「……すみませんでした」

「怪我したんでしょ?」

久保田係長は私の手をチラッと見た。

「あ、はい。でも、大丈夫です」

「あら、そう?実は副社長が心配なさって、顔を出したいっておっしゃってるんだけど」

「副社長?」

副社長って誰?
首を傾げる。

「あの時の茶髪の彼よ」

「……えっ!?あの方、副社長さんだったんですか?」

「ええ」

そんな!どうしよう……。
そんなに偉い人だったなんて、本当に商談がうまくいかなかったのかな……。
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