残業しないで帰りなさい!
翔太くんは大人です。
私には見えているなんて、私には見せているなんて……。そんなことを言われたらすごく嬉しいけど。
こうして包まれて、優しくなだめられるように囁かれると、翔太くんは私よりもずっと年上でずっと大人なんだって感じる。
翔太くんは、これまできっといろんな恋愛をして、いろんな思いを経験して、いろんなことを知っている。
そういう意味では私は翔太くんには敵わないのです。
だから、見せているなんて言ってくれても、本当は翔太くんが簡単に私に全てを見せてくれるとは思えないのです。
それでも、少しずつでいいから本当の翔太くんを見せてほしいな……。
「そういえばさ、あの時香奈ちゃん、非常階段で寝てる俺の何をじっくり見てたのかなあ」
「え?」
急にそんな話、なんだろう。私がカッコイイ着ぐるみが気になって見てたと思ってる?
あの時は、うたたね王子だ!って驚いて、その髪と頬の手触りが気になったんだよなあ。着ぐるみが気になったと言えばそうかもしれないけど。
「何って、えっと……」
髪の手触りが気になりました、なんて言いにくいなあ。
「ものすごく興味津々な様子だったからさ」
そんなに興味津々でしたか?……いや、確かに興味津々だったかもしれない。
「えっと、サボって寝てたりするから『うたたね王子』なのかなって思って……」
「それだけ?」
「えーっと、それから……」
「それから?」
翔太くん、もしかして何か気が付いてるよね?気が付いてるのに言わせようとしてるよね?
これっていつもの悪趣味パターンだよね?
……もう、仕方ないなあ。
「えっと、その……、本当に髪がサラサラなのかなあって思って」
「髪?そんなことが気になったの?」
「う、うん」
「本物の髪かどうか?」
「違うっ!」
そうきたか!
もう、何言ってるんだか。