残業しないで帰りなさい!

「もし、本物の髪じゃなかったら?」

え……?
急に何を言ってるの?
なにその不安げな声。
変な冗談?それとも本当?

それってそれって、ものすごく気になるなあ。
もし本当に本物じゃないなら、どんな感じなのか見てみたい……。

「別に構わないけど、本当の姿を見てみたいかな」

「あ、構わない?あはは、良かったあ。将来的にはどうなるか、俺にもわかんないからねえ」

「……」

冗談?それとも本当?
もしかして、ニセモノだから真っ黒なの?
肩からすぐ上をじっと見上げて疑いの視線を送る。

んー、近くから見ても地毛に見えるけどなあ。

目が合ったら翔太くんは苦笑いをした。

「やだなあ、冗談だよ!ちゃんと本物!まだまだ大丈夫だと思うんだけどねえ。それに、もし髪がなくなっちゃったら、俺は正々堂々と被らない選択をしたいっ」

そんなことを言って、自分の髪を覗くように見ながら引っ張る翔太くん。

もう!
一瞬疑っちゃったじゃない!

「ホントにホンモノー?」

「ホントに本物!触ってもいいよ」

そう言って、翔太くんは抱き寄せていた私を少し離した。

触ってもいいよ、なんて言われてましても。

えっ?ホントに?いいのー!なんて気軽に触ることなんてできません……。

私が戸惑っていると、翔太くんは私の右手を取った。

「触っていいよ」

もう一度そう言った翔太くんの瞳は、ちょっと真剣。
そんなの、なんかドキドキする……。

翔太くんはそのまま私の右手を持ち上げて自分の頭に持っていった。

指先が髪に触れたら、触れた指先が少し痺れたような気がした。

そして、そのまま私の手を置き去りにして、翔太くんは手を離してしまった。

触ってしまった……!
翔太くんの髪に触ってしまった。

ずっと気になっていた、あのサラサラに見える黒髪の手触り。
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