残業しないで帰りなさい!

思考回路と一緒に動きも止まってしまった私に菜々美さんからもらったクッキーも食べよう?と、翔太くんはまた紅茶を淹れてくれた。

菜々美さんは遊馬さんより7つ年上らしい。
つまり40歳!?見えなーい!なんて話ながらクッキーをつまんだ。

菜々美さんからいただいた手作りクッキーは、とても甘くて口の中でホロホロほどけた。思わずにんまりしてしまう。

そんな簡単にご機嫌になってしまう私に、翔太くんは微笑みかけた。

「こうしてこのテーブルで香奈ちゃんが目の前に座ってるなんてね、俺にとっては夢のようだよ」

「え?」

そんな……夢のようなんて。大げさだなあ。

「このテーブル、この家に引っ越してきてから買ったんだけどさ、二人掛けなんて買って自分でもバカみたいだなあって思ってたんだ」

「どうして?」

「一人で使うのに二人掛けを買うなんて、バカみたいじゃない?こんな風に誰かと向かい合って座る日が来るとは思わなかったし。実際、香奈ちゃんが今座ってる椅子はいつも物置きになってたからね」

「私が来た時はなかったよ?」

「そりゃあ、片付けたからさ」

そっか、片付けたのか。だから部屋がきれいなのね?

「香奈ちゃんと付き合うことになってからね、香奈ちゃんがいつ来てもいいように片付けたんだ。……フフッ、俺、本当にバカみたいだね」

「そんなこと……」

バカみたいなんて、そんなことない。私に来てほしいと思ってくれていたってことでしょう?そんなの、すごくすごく嬉しいのです。

こんな話をしてくれて、翔太くんは本音を言ってくれているようにも聞こえる。

でも、大人な翔太くんがどこまで私に本当の姿を見せてくれているのか、私にはわからないのです。
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