残業しないで帰りなさい!
チラッと左手を盗み見るとその長い指に指輪はなかった。指輪はしない主義?
……私、そんなこと初めて気にしたかも。初めて男の人の結婚指輪なんて確認してしまった。
なんだろう。なんかヤだな、私。
話題を変えよう。
「高野係長は課長のこと、『ナタの切れ味』って言ってました。できる人だって」
「えっ?何それ?そんな評価は初めて聞いた」
「そうですか?」
「高野のヤツ、そんなこと言ってるんだ。人のこと競走馬みたいに言わないでほしいなあ」
やっぱり競馬の話なんだ。私には全然わからない。
「どういうつもりでそんなこと言ってんだろーね。シンザンって意味なら悪くないけどさ」
「はあ、私にはよくわかりません」
「あ、そうだよね。青山さん、競馬なんてやんないもんね?」
あははっと藤崎課長は爽やかに笑った。
藤崎課長、競馬なんてやるのかな?王子様なイメージとは全然合わないけど。
「しんざんってどういう意味ですか?」
「シンザンは馬の名前だよ。無敗の三冠馬ね」
馬の名前……。うーん、サッパリわからん。
「お詳しいんですね?課長が競馬をされるなんて、意外です」
「え?いや、今は全然やんないよ。やってたのは学生の頃ね」
「学生の頃?」
「うん、大学の頃。働いてからは忙しくて何もできなくなっちゃったからさ。学生の頃は競馬とかパチンコとか、雀荘とかいろいろ行ってたんだけどねえ」
えっ?全然イメージと違う……。
競馬、パチンコ、雀荘?なんか急激にオジサンな感じがしてきた。でも学生時代の話なんだ?