残業しないで帰りなさい!

当時のことを思い出したのか、楽しそうに藤崎課長は話しを続けた。

「あの頃の雀荘ってさ、入るとお店の人がトングで熱々のおしぼりくれるんだけど、ホントに火傷しそうなくらい熱いんだよ。あれ、意味わかんなかったなあ。今もそうなのかな?」

「……」

トングってあの調理器具のトングだよね?トングでおしぼり渡すなんて……知らない世界。だいたい雀荘ってどんな所なんだろう。すごく怖そうだけど。

藤崎課長はハッとしたように動きを止めて私を見た。

「……こんな話、面白くないよね?オッサンの昔話なんて」

「いえ、知らないことだったので面白いです。もっと聞きたいです」

「そう?……ホントに?」

「はい」

もっと聞きたいと思ったのは本当だった。なんでだろう。

確かにオジサンっぽい昔話だけど、なぜか興味というか好奇心を持った。

知らない世界の話だから、かな?

それに、やっぱり見た目が王子様みたいな藤崎課長のことをオジサンだなんて全く思えなかった。

実際は立場も上の人だし、年齢もかなり上なのかもしれないけど、やっぱり年齢不詳。見た目では何歳なのかよくわからない。
< 45 / 337 >

この作品をシェア

pagetop