残業しないで帰りなさい!
「いきなり家に行くなんて、怪しい商売と勘違いされそうですね」
「あはは、そうね。勘違いされることも多かったよ」
「ですよねー」
「今はネットで申し込めるし、月ごとに契約して月ごとに解約できるから、ホント、時代が違うよねえ」
「はあ、そうですね」
ふと、藤崎課長は作業していた手を止めた。
「ごめん、やっぱり面白くないよね?」
「え?いえ、そんなことありません」
本当にそんなことないのに。
「そう?」
「はい。本当に興味あります」
「ふーん、ならいいけど。気を遣ってくれてるのかなあ、なんて思ってさ」
「いえ、そんな全然……」
私、気のない返事なんかしちゃったかな。聞いたことない話で、面白かったんだけど。
「でも、俺の昔話もここまでかな。もうすぐ終わりそうだよ」
ホントだ!気が付いたら、もう残り10個もない。二人でやったらあっという間に終わってしまった。
最後の一つを終わらせてトントンッと端を揃えてから、頭を下げた。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
「まだ終わりじゃないんじゃないの?」
「え?でも、段ボールに入れて車に運ぶだけですから」
「じゃあ手伝うよ。こんな重たい物、女の子に運ばせるわけにはいかないから」
「……」
まさか『女の子』なんて言われるとは思っていなかった。
強い抵抗を感じて、つい表情がこわばってしまう。