残業しないで帰りなさい!

「じゃあ、雀荘なんてただれた話じゃなくて、仕事の昔話にしようかな」

「はい」

雀荘の話も面白そうだったけど、会社の話でもなぜか興味がわいた。

ワクワクしてにっこりしたら、藤崎課長も少し微笑んだ。

「今はうちって生涯学習に力入れてて大人向けの教材なんて多いけどさ、昔は学童向け教材しか扱ってなかったんだ」

それは聞いたことがある。昔は子ども向けの教材だけを扱っているもっと小さな会社だったらしい。

でも少子化とか、大人の生涯学習が一般化してきたこともあって、大人の教材に力を入れるようになってから、この会社はずいぶん大きくなったと聞いている。

つまり、藤崎課長はうちの会社がもっと小規模だった時からいるってこと、なのかな。

「今はやってないけど、俺が入った頃は名簿業者から小学校に入学する子どもがいる家の名簿を手に入れて、一軒一軒に突撃でセールスに行って売り込んでたんだ」

「へえ」

人の家にいきなり行くなんてそんなの勇気いるなあ。新聞の勧誘に近いものがある?

「しかもいいお値段の教材でさ、一気に6年分を買ってもらうセールスだったから、1セット50万円とかだったんだよねえ」

「そんなに高かったんですか!?」

そんなに高い教材を買うなんて、勇気いるな。それに、突然家にやって来て50万円の教材買いませんか?なんて、高い壺の販売みたい。お金持ちじゃないと買わないんじゃないのかな?

「朝から晩まで働いてたのはその頃だよ。特に1月から3月ね」

「入学前のシーズンですもんね?」

「そうそう!」

藤崎課長は嬉しそうにうなずいた。
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