残業しないで帰りなさい!
顔を上げると、藤崎課長は不機嫌な顔ではなく困った顔をしていた。
「……そうだったんですね?それは、失礼しました」
「だからさっき変な反応したの?」
「え?」
「俺が誘った時、嫌がってたから」
「いえ、別に嫌がっては……」
誘われた時は、この人が既婚者であるかどうかなんて全く考えていなかった。
そんなことより、男の人と二人きりでの食事にビビったのですよ。
「いや、間違いなく嫌がってたよね?」
……しつこいな。どうしてそんなに食い下がるんだろう。
「嫌でした」とでも言えばいいんだろうか?でも、そんなこと言えるわけないし。本当に、嫌だったわけでもないし。
「……」
「イヤなのに無理やり連れてきちゃったのかなってちょっと反省してたんだ。でも、少し笑顔になったから安心してたんだけど。また無理してる顔に戻っちゃったね」
藤崎課長は寂しそうな笑顔をした。その寂しそうな笑顔、ズルいな……。
本当のことは言いたくないけど、言わないと藤崎課長が寂しいままになっちゃうんじゃないかって変な罪悪感を持ってしまう。
「えっと、本当に嫌がっていたわけでは、ありません……」
「じゃあ何?」
「あの……。私、男の人と二人で食事なんて行ったことがなかったから……、だから、それでちょっと躊躇しただけです」
「……そうなんだ」
藤崎課長は左手を口元に持っていって、じっと考えているようだった。