残業しないで帰りなさい!

私が答えないうちに藤崎課長はパッと私の皿からセロリを取って食べてしまった。

「それとも好きだから最後に食べようと思って残してたの?」

モリモリ食べながら藤崎課長は聞いてきた。本当にそうだったらどうするつもりだったのですか?

「いえ、……苦手だから残してました」

「そう?なら良かった」

そんなこと言ってにっこり笑ってるけど、自分だってトマトをよけて残してますよね?

「トマト嫌いなんですか?」

藤崎課長は目を少し大きく開けて、それから目をそらした。

「……そうねえ」

「じゃあ、食べてあげます」

私も藤崎課長が何か言う前に、皿からパッとトマトを取って頬張った。

「トマト、おいしいのに」

「セロリだっておいしいよ?」

「なんかセロリの匂いが苦手なんですよね」

「ああ、わかるなあ。俺も生のトマトの匂いが苦手なんだよねえ」

「生じゃなければ食べられるんですか?」

「うん」

「私は生じゃなくても食べられません」

「そっか」

目があったらなんかおかしくて、ふふっと笑ってしまった。

……なんだろう、この感じ。不思議な感じ。

なんてことないのに、やっぱりなんか楽しい。

「デザート頼んでもいいよ」

「え?」

「さっき、熱心に見てたから」

熱心に見てたかな?むしろスイーツなんて見ていること、バレないようにしてたのに。

「やっぱり女の子は甘いものが好きなのかな」

「……」

一瞬で表情がこわばるのを感じた。

そんなこと、言わないでほしかった。せっかく楽しかったのに……。一気に距離が離れていくのを感じた。
< 67 / 337 >

この作品をシェア

pagetop