残業しないで帰りなさい!

下を向いて唇を噛み締める私を、藤崎課長は困った顔でじっと見ているようだった。

「どうして可愛いって言われたくないの?」

「そんなの、嘘ですから」

「嘘じゃないよ」

「……」

「君は可愛いよ。俺が嘘つきみたいに言わないでくんない?」

また押し問答!

もう!しつこい!

そう思ってフッと見上げると、藤崎課長は少し怒った顔をしていた。

あ……しまった。考えてみたら上司に向かってこんな態度、良くなかったかもしれない。

でも!
可愛い女の子とか言って、藤崎課長が変に女扱いするから!

女として見られるのすごく怖い。罪悪感を感じる……。それなのに。

私は少しパニックになって涙目になった。

「……怖いから、お願いだから、もうやめてください」

またうつむいて、小さく震える声で言った。

他にどう言えばこの押し問答をやめられるのか思い付かなかった。

言った後でさっきみたいに『セクハラです!』って言えばよかったんだと気がついた。でも、もう遅い。

「……怖い?……そう、ごめん」

藤崎課長は驚いたように身を引いた。

「ごめん。本当にごめん。せっかく楽しかったのにね。……君を怖がらせるつもりなんてなかったんだけど、俺が悪かったよ。……それとも、楽しかったのは俺だけかな」

言葉の一つ一つに誠実さを感じる課長の声。
私もすごく楽しかった。それなのに……。
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