残業しないで帰りなさい!

それにしても、ただ階段に座っているだけなのに、なんだか手足が長く見えるなあ。

なぜかもっとよく見てみたくなって、寝ているのをいいことに、側に寄ってじーっと観察してしまった。

風で髪が少し揺れている。寝てても王子様だなあ。目を閉じているとまつ毛が長いし。
そんなに年上には見えない。本当に35歳なのかな?唇の感じも、頬の肌の感じも若いよね。

その頬にちょっと触ってみたい、と急に好奇心がわいた。その黒髪、触ってもサラサラなのかな?

……でも、さすがに触っちゃダメだよね。
観賞用ってこういうこと?ちょっと、違うか。

あれ?この人だよね?

昨日、私の作業を手伝ってくれた人。
昨日たくさん喋った人。

王子様っぽいのにすごくお喋りな人。

昔はたくさん残業していた営業のカミソリ王子で、意外と競馬とかに詳しいオジサンな側面があって、窓際の席が好きで、オムライスが大好きで、王子と言われたくなくて、学生時代は吹奏楽部で、トマト嫌いで……そして私を女の子扱いして、怖いと言われて落ち込んだ人。

昨日の出来事一つ一つの全てが忘れられない。
なんだろう、これ。ドキドキする。

自分で自分がわからない。不思議な気持ち。

資料を胸に抱えて息を潜めて、かなり近付いてじっと見ていたら、フッと片目が開いた。

「寝てないよ」

「わわっ!!」

驚いて後ろに転びそうになった。ギリギリ転ばなかったけど。
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