嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

「……誰か、見てるかもしれませんよ?」 

「見てないよ」

「いやいやー、これが見てるんだなっ」

「?」

「えっ!?」

 ……声の主はいつの間にか私たちの横に来た阿久津課長だった。

 隼人さんは私に絡めた腕を離すに離せないでいるのか、私を後ろから抱き締めたまま。

「部長、血気盛んだなあ。若いもんねっ」

「……」

 顔は見えないけど、隼人さん、きっと目を細めてる。

「でもね、子どももいるんだから、行き過ぎた行為はしないでくださいよ」

「しないっ!」

 隼人さんが言い返すと、あははーっと笑って楽しそうに阿久津課長は私たちから離れていった。

 なんか意外。阿久津課長ってああいう感じの人なんだ。もっとキツい人かと思ってた。

 まあ、あの花ちゃんの旦那さんだもんね?それはそうかもしれない。

「ほら、見られてたじゃないですか」

「……」

「やっぱり人前ではダメです」

「……じゃあ、帰ってからにする」

 すごくふてくされた声。これは……、帰ってからちょっと大変なことになりそう。

 私が密かにドキドキしていたら、レベッカさんが子どもたちに声をかけて輪にして集めると、クリスマスツリーの下に置いたプレゼントを音楽にあわせてぐるぐると回し始めた。

 みんなキャッキャッと楽しそう。

 遠くからその様子を見ていたら、私の置いたプレゼントは女の子向けだったのに、なんと陸斗くんの手に渡ってしまった。

 それでも陸斗くんは喜んでくれていたのに、横から彩花ちゃんに「こっちがいー」と奪われて、陸斗くんは大泣き……。お姉ちゃんって強いな。

 そこに花ちゃんが割り入った。

「彩花!陸斗に謝りなさい!交換してって言えばいいでしょ。彩花のプレゼントを陸斗にあげなさい!」

「えー!やだー!」

「やだじゃないの。ちゃんとお願いして交換しなさい!」

「……はーい」

 すごい……、花ちゃんがちゃんとお母さんしてる。そりゃそうだよね?お母さんだもんね?

 そんなお母さんをしている花ちゃんを見ていたら、前に「雪菜はいいお母さんになる」って言われたのを思い出した。

 花ちゃんは何の気なしに言ったのかもしれないけれど、花ちゃんのその言葉は不思議と胸に深く沁み込んで、今でも私に力をくれている。

 私、いいお母さんになれるかな?

 そんなこと、考えることすら避けていたのに
今は素直にそんな疑問を持てるようになった。

 帰ったら、今日思ったことを、子どもがほしいと思ったことを隼人さんに話してみよう。

 隼人さん、どう思うかな。
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