嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
レベッカさんは材料を並べてからちょっと考えて、パンケーキだけじゃつまらないから、余っているリンゴを使ってアプフェルクーヘンも作りましょう、と言い出した。
型を使って作る可愛らしい羊のパンケーキはイースター用。でも、料理教室に通いつめている私たちには簡単すぎて物足りなくて、手際よくささっと焼いて粉砂糖をかけて、あっという間に出来上がってしまった。
なので、調理台はアプフェルクーヘン作りへ早変わり。
アプフェルクーヘンはリンゴの焼き菓子。パンケーキよりこっちの方が楽しそうだね、なんてみんなで笑いながら調理台を片付けた。
レベッカさんのアプフェルクーヘンは、予想はしていたけれど、ナツメグとかの香辛料をいろいろ投入し、砕いたクルミも入れるいかにもドイツらしい焼き菓子だった。
焼き上がるまでの間、お茶とパンケーキを囲んで話をしていたら、珍しく夫の会社の人事の話で盛り上がった。
4月から斉藤支部長は日本に戻ってどこかの営業所の所長になるらしい。なんか急な人事異動だよね?という話題になった。
斉藤支部長は今年で定年退職だけど、そのまま継続雇用されて同じ役職のままドイツに残る予定だって聞いていた。何かあったのかな?
レベッカさんも花ちゃんも、旦那様から会社の話はほとんど聞かないらしい。そもそも興味もないご様子。私は隼人さんがいろいろと話してくれるから聞いているけれど、今回の人事の話は知らなかった。
もしかして、隼人さんの仕業?私にも秘密で裏工作をしていたりして?そんなことをして恨みをかったりしていないといいけれど。
次の支部長はどんな人が来るんだろうね、なんて話をしていたら、オーブンからふんわりいい香りが漂ってきた。
レベッカさんがぶ厚いミトンを手にオーブンの扉を開けると、その瞬間から甘いリンゴとシナモンの香りが立ちのぼってたまらなく美味しそう!
結局私たちはパンケーキだけでなく、アプフェルクーヘンも味見と称してペロリと美味しくいただき、大満足で料理教室を後にした。
「お腹いっぱいになっちゃったね」
「うん!でもお茶は行こっ?」
「花ちゃん、時間平気?」
「ぜーんぜん平気だよ!雪菜がお茶したいなんてさ、なんかあるんでしょ?何でも聞いちゃうよー」
「……うん。ありがと」
花ちゃんは本当にいい友達。こんないい友達を羨ましいなんて妬んだりして、私って本当に大バカ者です。