○○するお話【中編つめあわせ】
カイジ、という吸血鬼は最初からふざけた人だった。
私にと用意された屋敷に越してきた日の夜。ベッドが固くて寝付けずにいた私は、部屋を抜け出し廊下を歩いていた。
今日が満月だという事は知っていたから、月を眺めるために。
私に用意された部屋にも窓はあるけれど、月は別の方角に出ているようで見えなかった。だから廊下に出たのだけど。
月灯りが照らす廊下の先数メートルのところにある窓が外側から開けられ、そこから全身真っ黒な男の人がシタっと廊下に降り立ったのを見て思わず足を止めた。
マントを翻した男の人は私に気付き、ゆっくりと振り返る。男の人としては長めの黒髪。その奥に見える瞳が黒く底光りしているのを見て、ああその時がきたんだなと思った。
小さい頃から私は、いずれ吸血鬼の生贄になるために存在していると育てられてきた。
物心ついた時にはもう周りの大人は口を揃えてそう言っていたし、私を育ててくれた大人もそう言っていたから、そうなんだろうと何の疑問も持たずにいた。
こどもにとって、周りの大人は絶対で世界だ。
特に私みたいな貴族の血を引く人間は外出さえ許されないから、本当に家がすべてで世界だった。
狭い狭い世界。そこに窮屈さや不満を感じた事はない。そういうものは教えられてこなかったから。
私を育ててくれた大人は、私を育てやすいと言っていた。
反抗するわけでもないし、感情を表にも出さないし、何より自分の運命をすんなり受け入れたからだと話していたけれど、それは当然だと思う。
本来の私がどんな性格をしていたのかはもう分からないけれど、そう育てられたのだから。