○○するお話【中編つめあわせ】


運命を受け入れずに生きたいと願う事なんて、誰も教えてはくれなかった。
だから、この屋敷に引っ越せと言われた時も別に何とも思わなかったし、逃げ出さないようにと警備がついている事も気にならなかったし、私の部屋の窓に鍵がかかっている事もすんなりと受け入れた。

ただ、ベッドが固いのだけ気になった。

「こんばんはー。……あのさ、俺が誰だか分かる?」

底光りする瞳が拍子抜けしたような表情を浮かべる。
吸血鬼なんて本で読んだだけだから実際どんななのかは知らなかったけれど、想像とは大きく違って感じた。
もう少し紳士的で儚いイメージだったのだけど……この吸血鬼は生命力に溢れている感じがする。

今の吸血鬼は随分健康的なんだなと思いながら「マントとか、本当にしてるんですね」と言うと、それはオプションだと言われた。
今日、初めてつけたらしいマントが意外と重くてびっくりしていると言った吸血鬼が不思議そうにこちらを見る。

「あのさ、俺、君が言う通り吸血鬼なんだけど……なんで君は怖がんないの? ぶっちゃけ怖がってくれないと張り合いがないっていうか、やりにくいっていうか」
「そんなのそちらの勝手でしょう」

どうやら私が怖がらないのが不服らしい。
けれど私はずっとこういう時がくると言われ続けてきたから、吸血鬼を目の前にしたところで、ああその日が来たのかってくらいにしか思えないし、今更驚きもしない。
もっと言えば、人間なんていずれ死ぬんだし、それが今だっただけだとさえ思っている。

仕方ない、という言い方も少し違うけれど。これが運命だと思うだけだ。
よほど納得いかないのか、その後も健康的な吸血鬼は色々聞いてきて、私もそれに答えるという事を少し繰り返した。


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