○○するお話【中編つめあわせ】
なのに……。
あいつが最後に笑ったのがいつだったのか、思い出せない。
あいつが呑み込んだ言葉がなんだったのか、見当もつかない。
なんでかって、そんなの簡単だ。
俺が、あいつを見てなかったから。
毎日のように頭を撫でてやってたのに……それの最後がいつだったのかも。
手のひらを眺めても、あのふわふわした猫っ毛の感触はよみがえらなかった。
この部屋にはこんなにも凛の気配が溢れてるのに……肝心の凛が――。
そうぼんやり考えていて、手を払われた事を思い出す。
あの、喧嘩の時。
泣きながら責めるように見つめてきた事を。
――ああ、そうか。
俺のモンじゃねーなんて言ったくせに触るなって……。
優しくもしてくれないくせに、こっち見てもくれないくせに触るなって……そういう意味だったのかと今更思い知る。
今思えばあれは凛の叫び声だったのかもしれない。
苦しいの気づいて欲しいって……声にはならない言葉で、そう言ってたのかもしれない。
泣き顔とか、寂しそうに下がった眉とかそういうのならすぐ思い出せるのに。
あんなに好きだった笑顔が、遠く感じた。