二度目の恋の、始め方

そのまま看護婦さんに引きずられるように検査に行ったお父さんの後ろ姿を見送って、バイト先へ向かうために駐輪場へ急ぐ。

「あれ、川嶋さん?」

自転車に鍵を差し込んでいると、聞き覚えのある低い声にドキッとする。短髪の黒髪に涼しげな目元。眼鏡にスーツ姿の長身の男性がゆっくりこちらに近づいてくる。

「……さ、悟(サトル)さん」

「お父さんのところ?」

「はい。でももう帰るところで」

宮路総合病院。そう。ここは雄大のお父さんが院長を勤める大病院。目の前にいる男性は、正真正銘、雄大のお兄さんだ。どことなく彼と雰囲気は似ているけれど、悟さんはどこかミステリアスな人。

「僕は夜勤でね。お父さん具合はどう?」

「変わらずです。悟さん、ドナーの提供者、まだ見つかりそうにないですか?」

「全力は尽くしてるんだけどね」

困ったように笑う悟さんは、この病院の次期院長候補と噂されている。
優秀なだけじゃなくて患者さんやスタッフの人達からも信頼が厚く、父のことも親身になって相談に乗ってくれるから、こうして困らせてしまうことも度々。
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