二度目の恋の、始め方
「……ごめんなさい」
「いや、こういう時に医者の無力さを痛感させられるよ。情けないね」
そう言って、私の頭を撫でてくれる悟さん。眼鏡の奥の瞳は切なげに揺れていて自分の気持ちが先走りすぎたんだと反省する。
「あの、とっても感謝してます。院長にも悟さんにも。宮路総合病院以外、問題のある父を受け入れる病院はありませんでした」
「だけどね川嶋さん。別に親父の話を全部鵜呑みにする必要は無かったんじゃないのかな?キミと雄大の事と、キミのお父さんの病気の事はまったくの別問題だよ」
「……もう過去の話です。悟さん、雄大にはくれぐれも内緒に……。それじゃあ」
「川嶋さん!」
まだ何か言いたそうな悟さんから逃げるように、自転車のカゴにバックを乗せてスタンドを蹴る。バイト先がある駅前のカラオケ店まで自転車を飛ばせば10分の距離。出来れば思い出したくなかった過去を頭から消し去るように、無我夢中で自転車のペダルを漕いだ。