触れない温もり
第2章:言えよ
「ただいまー」

いつもと変わらない玄関、


「あら、おかえりー。思ったりよ早かったわねー」

いつもと変わらない母さん。


「これがあなたのお母さんですか。
これからお世話になります、葵(あおい)です。
よろしくおねがいします。」


ただ一つ、いつもと変わっているのは、後ろで深々と頭を下げている幽霊少年。


って……


「いまさらっと自分の名前言った!?」

驚いて思わず振り返り叫んでしまう。


「言いましたよ?」

それとは対照的に、当然でしょう?とでもいうように幽霊少年は首をかしげる。


「ね、ねえ?羚?」

母さんが怪訝そうな顔でこっちを見る。


「なに?母さん、今大事な話してるんだけど」

話に割り込まれた俺はちょっとイラッとして、きつい言い方をした。


「じゃ、じゃあ、その大事な話してる相手は……誰?
もしかして、見えない何かがいるの?」


「やっぱりかー」

その答えは想定内だったようで、幽霊少年こと葵はそう呟く。


「やっぱり……って、母さんには見えないのか……?」


さらに母さんが気味の悪いものを見るような目でこちらを見る。


「ちょっとどうしちゃったの…?
まさかとは思うけど、ドラッグなんて始めてないでしょうね?最近荒れてると思ったらーー」


俺を薬物乱用者と勝手に決めつけ話し続ける。


「ちげぇし!なに人をラリってるみたいに言ってんだよっ!」

「じゃあ……なんなの?」

そんな不審そうな目で見るなよ……
こっちの方が怖いわ……


「だ、大丈夫だよ?気になるなら警察とかで調べてもらってもいいよ?」

声が震えるぜ……


「なーんか怪しいなぁー。しかもヤンキーしゃべりやめてるし」


……あ。


「まあ、ドラッグとか危険なやつじゃないならいっかー」


そういいながら居間にのんびり帰っていった。



適当な母さんでよかった……



「とりあえず、上がってよ、葵。」


葵の方に向き、部屋に案内しようとする。


「それはいいのですが、羚くん。後見てください。」

僕の後ろを指さす葵。


「あ?なに……」

言われる通り後ろを振り返ると……その指の示す先には………



居間のドアから覗く、影のある笑みを浮かべた母さんの姿が……



そして一言。



「変なこと始めたら、この家にはいさせないから………ねぇ?」
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