WHY
むせ返る午後の体育館の中で、コートを往復するダッシュの練習が始まり、下級生達にネットを張る指示をしていた時だった。後ろから大きな声で、私を呼ぶ大きな声をした。
 

”あいつ”だ。でもそのときは確かに、尊敬をしていたし、言いたくないけど大好きだった。
 

勢い良く、”あいつ”のとろこに向かい、大きな肩を下から見上げ、顔を見た。いつもと違う、ニコニコした表情が不思議だった。手招きをし、後ろを着いていく、体育館は2階だから、下におりるスロープを一緒に降り、武道室の横に、シャワー室がある。”あいつ”は私に、ここの整理を一緒にしてくれないかと告げた。
 

 いつもの、横柄な態度は変わらないが、優しい声で、正直不気味だった。まずは、更衣室と思い、脱衣所の棚の上のゴミを取ろうとした……………その瞬間だった。
 

急に後ろから抱きつき、私は小さな踏み台のまま床に引いてある、ござの上の横に倒れて、”あいつ”もその上から覆い被さって来た。声を上げようとしたが、恐怖で出ない。こんな体験は初めてだ。コートの中で甲高い声をいつも上げているのに、こんな時にでないなんて…。私は必死になり、抵抗を繰り返したが、力の差は歴然としていた。いづれ、強引にキスをされて、強引に口を付けさせられた。キスではない。と今でも思う。まだキスもしたことなければ、手をつないでデートもした事のない私が、何で、何で、何でと頭の中が真っ白になった。

 左手で手を押さえられて、右手では胸を、そして下のほうを…。
そのときだった、入り口付近で物音をしたのは。その瞬間ぱっと、動作をやめて、シャワー室の方に行き、あたかも掃除をしていましたというフリをするかのように、デッキブラシを持った。私は呆然とし、身なりを整え、一礼をしその場を去った。


体育館の足取りははっきり覚えていない。ただいえることは、涙が出なかった。涙を出したら、皆が余計な心配をする、仮にも主将だ、こんな姿を見せられない。そんな、変な責任感が頭をよぎり、平然と体育館へもどった。

 練習は始まっていたが、普通に受け入れてくれる皆が妙にうれしかったのを覚えている。これが私の高校2年生の夏。私の夏の始まりはこうやって始まっていった。
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