まっしろな遺書
 2015年3月3日

 十三は居も病院を抜け出し萌の喫茶店へと向かう。
 すると喫茶店には臨時休業の札が出されていた。

「休みか……」

 十三はぼそりと呟くと帰ろうとした。

「こら!十三さん!」

 すると聞き覚えのある声に呼び止められる。
 十三が振り返った場所にいたのは、千春だった。
 十三は思わず逃げようとした。

「コラ!逃げたらダメ!走ってもダメ!」

 千春がそう言って十三の腕を掴む。

「ご、ごめんなさい」

「病室にいないから散歩でもしてるのかと思ったら、まさか外を散歩していたなんて……」

 千春がため息をつく。

「はい。ごめんなさい」

「はぁ……
 とりあえず病院に帰りましょう」

「はい……」

 十三は、千春に引っ張られ病院へ戻った。
 すると待合室で沈んだ顔の萌がいた。

「あれ?
 萌ちゃんどうしたの?」

 十三に気づいた萌が今にも泣きそうな顔で言葉を放つ。

「十三くん」

「どうしたの?」

 十三は、もう一度尋ねた。
 嫌な予感がした。

「私、乳がんなんだって……」

「え?」

「今、太郎君が、私の病状について説明を受けてるの……
 私、もう長くないかもしれない……」

「大丈夫だよ。
 太郎は、きっと簡単な説明を受けているだけだから……」

「でも、入院するんだよ?」

「じゃ、入院の説明をしてるんだよ……」

「そっかな?」

「ああ。
 きっと大丈夫」

 十三は、そういうことしか出来なかった。
 千春の表情も暗い。
 十三はひたすら笑顔を貫いた。
 自分まで暗い表情をしてしまえば萌が不安になるから……
 自分の笑顔でその不安が消えるのなら安いものだと思ったから……
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