君と春を



夜遅かったこともあり、慎汰さんは帰ることになった。

「はぁ。百合先生、俺…」

「却下。帰りなさい。」

百合先生は彼の言いたいことなどまるでお見通しのようだった。

「ふふふ。私はもう何処にも行かないですよ。

ここにいますから、また会いに来てください。」

自然に笑顔がこぼれる。

「…その笑顔がずっと見たかったんだ。本当に……よかった。」

百合先生の存在を気にも留めず額にキスを落としてくる慎汰さんはまるでここ数週間ぶんの触れ合いを取り戻そうとしているようだった。

「…はいはい。
春瀬くん、それ以上は美月の体力がちゃんと回復してからよ?

詳しい話はまた明日。土曜日なんだから休みでしょ?

明日いらっしゃい。」

私たちを見ていた百合先生は呆れ返ったようにヒラヒラと手を振って彼を追い出した。

「あっ……、はぁー。わかりました。

…美月、明日また来るよ。

おやすみ。」

「………おやすみなさい。」

後ろ髪を引かれるように帰っていく彼と離れるのは私も寂しかったけれど、これからずっと一緒にいられることを思えばそれも我慢できた。



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