ヒカリ
「電車で2時間くらい、北に行けば雪景色が見えるんじゃないかな。」

そう言う泉水の言葉には、計画性の欠片もなくて、だけど、それは私を無性にワクワクさせる言葉でもあった。

とりあえず北へ、なんて逃亡者みたいだ。

ゴトンゴトン、と規則的に揺れる車内には私たちの他には誰もいなくて、窓の外はしぃん、と静かだった。

夜よりも明け方のほうが静かなのは何故だろう。

私は隣に座る泉水の膝に置かれた手の甲をじっと見つめていた。

泉水の指は長く、爪は短く切り揃えられている。
まるで、清潔検査の日の子どもみたいに、きれいに。

「恵玲奈はあんまり自分のこと話さないからさ。」

泉水が急に話し出して、私は泉水の顔を見上げた。

「聞いてもいいかな、恵玲奈のこと。」

いいよ、と私は答える。
でも、そんなに面白いことないよ、きっと。

「恵玲奈は旦那さんのこと、好き?」

わからない、と私は答える。
即答だ。
いつかの千香さんみたいに。

「そもそも私は人を好きになったことがないかもしれない。と、思う。」

「かもしれない?」

「うん。わからないの。人を好きになるとか、好きになってもらう、とか。旦那さんは私を好きだと思ってたんだけど。もしかしたら、好きじゃないかもしれない。もしかしたら最初から好きじゃなかったかもしれない。」


そう言いながら、ゴトンゴトン、と揺れる電車のリズムと、足元から出てくる温かい空気だけを感じていた。


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