さちこのどんぐり
いつしか奈津美は時折、大森のマンションを訪れるようになった。

次第に、その頻度は増えていき
大森も奈津美に惹かれていくにつれて
二人は「付き合う」ようになっていった。


でも…
「前嶋さん」

こんなに親しくなったのに大森はいまだに奈津美をそう呼ぶ。
そこで奈津美は大森に、こんな提案をした。

「なんか他人行儀だし、『なっちゃん』って呼んでよ」

「いや…俺は、どうも、そういうのが苦手で…」

「じゃあ『奈津美』」

「それはもっと無理!呼び捨てって抵抗あって…」

「しようがないなぁ…じゃあ『奈津美ちゃん』でいいよ」

「それなら、なんとか言えそうかな…」大森がそう言うと

奈津美は
「私は『かずたん』って呼ぶね」

「……………!」

「いや、なんか言いにくいなぁ…そうだ!『かーたん』にする!
ね!かーたん!」

嬉しそうな笑顔の奈津美に大森は、何も言えなかった。



大森和也40歳。
彼はその日「かーたん」になった。


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