さちこのどんぐり

その同じころ…

「おかしいなぁ…確かこの辺にあるってグルメサイトに書いてあったんだよ」
駅から少し離れて商店もまばらになってきた通りで、
周囲を見回しながら、そう言う奈津美に

「もうちょい駅寄りだったんじゃないか?」
休日でジーンズ姿の大森が答える。

「かーたんがオムライス好きっていうからサイトで一生懸命探したんだよ」

春らしいニットのセーターにスカート姿の奈津美を
「かわいいな…」と眺めながら
そもそも地図を読むのが苦手で、方向おんちな奈津美に案内を任せるべきじゃなかったと大森は思った。

また、「かーたん」と呼ばれることに抵抗がなくなってきている自分に気づき、そのことについては「もはや受け入れるしかない」と諦めていた。

とりあえず駅の方角に戻ろうとして、二人は歩いた。
やがて、再び駅前に奈津美と大森が来たときである。

誰かを見つけた奈津美が急に叫んだ。
「あ!坂崎さんだ!坂崎さーん!」

「…………!!!」

大森はその名前を聞いて焦った。
そして奈津美が手を振る先にいた男を見て、さらに焦った。

「坂崎って…あの坂崎だ…」

呼ばれた坂崎も同じだ。
自分が担当していたファミレス店舗にアルバイトに来ていた女子学生の隣には…大森和也がいた。

「大森?!」

「おう…ひ…久しぶり…」

そんな二人の会話に奈津美も驚いた。

「お二人は知り合いなんですか?」

「腐れ縁の友人同士だ」大森がそれに答えた。

「そうなんだぁ!偶然ですね!私たち、いまデート中なんですよ!」
坂崎に奈津美がそう言うと

「えええええええ!」
坂崎は心の中で叫んだ。
彼の娘と少ししか年の変わらないこの女の子が大森の彼女?

「へえ…そ…そうなんだ…」
動揺を隠しながら、そう答えるのが精いっぱいの坂崎に、
大森は目を合わせることなく、空を仰いでいる。

< 143 / 163 >

この作品をシェア

pagetop